IC入力端子を守る2つの保護ダイオード
過電圧は電源とグラウンドへスルー・パス
抵抗と組み合わせる
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図1 アナログICやディジタルICは,入力電圧の範囲が電源電圧から0Vまでに制限されている.入力端子に過大な電圧が加わると,内部のトランジスタが壊れる.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[講師]善養寺薫(ディスクリテック) 詳細:[Webinar]実験キットで学ぶ初歩の電子回路設計 |
アナログやディジタルのICは,入力電圧の範囲が電源電圧から0Vまでに制限されていることが多いです.入力端子に過大な電圧が加わると,内部のトランジスタが破壊されることがあります.そのため,多くのICでは入力端子の内部に2つの保護ダイオードが組み込まれています.これらのダイオードは,入力電圧が規定範囲を超えた際に,電流を電源ラインまたはグラウンドへ逃がす働きをします.
入力電圧$V_{in}$が電源電圧$V_{DD}$を超える場合,上側の保護ダイオードが順方向に導通します.これにより,余分な電流は電源ラインへバイパスされ,入力端子に過電圧が印加されないようになります.逆に,$V_{in}$が0Vより低下した場合には,下側のダイオードがONとなり,電流がグラウンド方向に流れます.これにより,入力端子は0V付近にクランプされ,負電圧による破壊を防ぎます.
この2つの保護経路によって,入力端子は「5Vを超える領域」や「0Vを下回る領域」においても安全に保護されます.いずれの方向でも,電圧はおおよそダイオードの順方向降下電圧(約0.7V)だけ制限されるため,実際の端子電圧はおよそ$V_{DD}+0.7$Vまたは?0.7V付近にクリップされます.
実際の回路では,IC内部の保護ダイオードだけに頼らず,外付けの抵抗を併用することが一般的です.抵抗を直列に挿入することで,過電圧時の電流を制限し,ダイオードやIC内部の構造に過大なストレスがかからないようにします.
- 過電圧保護:入力端子と信号源の間に抵抗を入れて電流を制限
- 負電圧保護:グラウンド側ダイオードと併用して安全動作を確保
- 電源安定化:$V_{DD}$ライン側への電流注入を抑え,他回路への影響を軽減
抵抗値が大きすぎると応答速度が低下するため,信号周波数や入力インピーダンスの要件に応じて適切な値を選ぶ必要があります.高精度A-Dコンバータなどでは,入力容量との組み合わせで時定数が形成されるため,過渡応答を考慮して抵抗値を設計します.
保護設計の考え方
入力電圧の過大・過小は一瞬のサージや誤配線で簡単に発生します.IC内部の保護ダイオードは1次的な防御として機能しますが,繰り返しのストレスには耐えられない場合もあります.そのため,外付け素子を組み合わせた2段構えの設計が重要です.
過電圧を電源とグラウンドへスルー・パスする2つの保護ダイオードは,ICを守る最後の砦です.電圧の方向と電流経路を意識し,設計段階で電源ラインやグラウンドのインピーダンスも含めて検討することが,安全で信頼性の高い電子回路設計につながります.
〈著:ZEPマガジン〉参考文献
- [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD] Before After! ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [Book/PDF]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.