高速×並列処理!電源制御マイコンの要件
CPU/DSP/EPU搭載のMD6605を例に
電源制御がマイコンに求める応答性能
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図1 モータでは50μs程度の制御レートで十分だが,電源では0.5μ~2μs(2M~500kHz)の応答が必要.単一のCPUやDSPではなく,並列処理に対応したマルチコアCPUがよい.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[講師]山崎尊永/古川直治 詳細:[VOD]高効率電源&インバータ設計のための超高速トランジスタGaN/SiC活用術100 |
電源制御では,相手が電気回路であるため制御レートが非常に高速であることが求められます.一般的なモータ制御では50μs程度の制御レートで十分ですが,電源制御では0.5μs~2μs(2MHz~500kHz)程度の応答速度が必要です.そのため単一のCPUやDSPでは制御が困難であり,並列処理に対応したマルチコア構成が有効です.
MD6605マイコンでは,CPU,DSP,EPUという性質の異なる3種類のコアを搭載し,並列処理を実現しています.CPUはシステム全体の制御や通信,故障予測のためのエッジAI処理を担当します.32ビット整数および浮動小数点演算に対応し,RISC-Vアーキテクチャを採用することで高性能かつコード・サイズの削減が可能です.
DSPとEPUによる専門処理
DSP(ディジタル・シグナル・プロセッサ)は,ディジタル・フィルタや行列演算などの演算処理を担当します.整数および浮動小数点演算に対応し,チップ内部のイベント信号に同期した実行が可能です.MD6605ではDSPを2コア搭載し,主要なフィードバック制御を効率的に処理できます.
EPU(イベント・プロセッシング・ユニット)は,高速応答タスクの切り替えを専門に行うコアです.CPUで割り込みによりタスク切り替えを行う場合,レジスタ退避による遅延が発生しますが,EPUはイベント入力を受けるとゼロ時間でスレッド切り替えが可能です.そのため,電源保護機能の実現やパワー・トランジスタのドレイン電流やドレイン-ソース間電圧が0になる瞬間のスイッチングなど,高速かつ精密な制御が実現できます.
マルチコア構成とシステム効率
MD6605はCPU1コア,DSP2コア,EPU2コアの合計5コア構成で,66.6MHz動作時に400MFLOPSの固定小数点演算能力と600Mオペレーション/秒の浮動小数点演算能力をもっています.各コアが専門領域の処理を担当することで,チップ全体の消費電力増大を抑えつつ,電源システムの効率改善を支援します.
- CPU:システム制御・通信,故障予測(エッジAI)
- DSP x2:ディジタル・フィルタ・行列演算,メイン・フィードバック制御
- EPU x2:ゼロ遅延タスク・スイッチ,保護機能,高効率/低ノイズ・スイッチング
チップ内ではADC,CMP+DAC,LUT,HPWM/MPWMなどのモジュールがイベント信号により相互に同期され,EVC(イベント・コントローラ)で信号接続が自由に選択できます.これにより,各モジュールがタイミングを合わせて効率的に動作します.MD6605のヘテロジニアス・マルチコア構成は,高速演算と高速応答を両立させる電源制御向けアーキテクチャの典型例です.
〈著:ZEPマガジン〉参考文献
- [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT/data]一緒に作る!LLC絶縁トランス×超高効率・低雑音電源 完全キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD] Before After! ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [Book/PDF]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.