間接ESDはリセット信号の直列抵抗で対策


デシベルから始めるプリント基板EMC

電磁結合による高周波成分をもつノイズへの対応

図1 マイクロプロセサのリセット信号は低速でありながら高感度な入力であるため,わずかなノイズで誤動作する.有効な対策は,リセット信号ラインへの直列抵抗の追加.詳細は[Book/PDF]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200

間接ESDとリセット信号の直列抵抗

静電気放電(ESD)は電子機器にとって大きな脅威です.直接的に端子へ加わる場合だけでなく,周囲で発生した放電が基板上の配線に電磁結合し,間接的に影響を与えることがあります.特にマイクロプロセサのリセット信号は低速でありながら高感度な入力であるため,わずかなノイズで誤動作する危険があります.このような場合に有効な対策がリセット信号ラインへの直列抵抗の追加です.

直列抵抗による抑制のしくみ

間接ESDによる過渡現象は数ns以下と非常に短く,エネルギも小さい特徴があります.しかしリセット信号入力が高速に変化すると,このわずかなノイズでも極性が反転してしまうことがあります.ここで1k$\Omega$程度の直列抵抗を挿入することで,信号遷移を適切に制御し,短い過渡成分を吸収できます.直列抵抗はノイズの高周波成分を抑制し,リセット信号の安定性を確保する役割を果たすのです.

ほかの対策との比較

リセット信号の保護にはさまざまな手段が考えられますが,効果は限定的です.代表的な方法を整理すると次のようになります.

  1. 再配線:基板の配線経路を変更しても間接ESDの影響を避けるのは難しい
  2. ツェナー・ダイオード(TVS):直接ESDの低周波成分には有効だが,高周波成分には効果が小さい
  3. シャント・キャパシタ:接続インダクタンスが存在するため高周波成分には効きにくい
  4. 直列抵抗:高周波成分を抑制し,リセット信号の誤動作防止に有効

この比較からも,間接ESDに対しては直列抵抗がもっとも実現性が高く,確実な方法であるといえます.

電磁結合による高周波ノイズへの対応

基板上では隣接する配線間に電磁結合が発生しやすく,特に高速スイッチング回路が存在すると高周波成分をもつノイズが伝搬します.このノイズはI$^2$CやSPIなどの低速通信信号にも影響を与える可能性があります.高周波ノイズを抑制するには,配線インピーダンスの制御,グラウンド・プレーンの活用,適切なデカップリングなど複数の工夫が必要です.

その中でも直列抵抗はシンプルでありながら効果的な手法です.$V_{in}$に入力される信号に対して不要な過渡成分を減衰させ,回路全体の信頼性を高めることができます.基板設計では,重要な低速信号ラインに小さな直列抵抗を適切に配置することが,ESDや高周波ノイズ対策の基本です.

〈著:ZEPマガジン〉

参考文献

  1. [PDF]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/KIT]ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]Gbps超 高速伝送基板の設計ノウハウ&評価技術,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  7. [VOD]Pythonで学ぶ やりなおし数学塾1【微分・積分】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  8. [VOD]Pythonで学ぶ やりなおし数学塾2【フーリエ解析】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  9. Pythonではじめる 数値解析入門 [Vol.1 Pythonの開発環境をインストールする],ZEPエンジニアリング株式会社.
  10. Pythonではじめる 数値解析入門[Vol.2 グラフ描画ライブラリ“Matplotlib”で2次元のグラフを描く],ZEPエンジニアリング株式会社.
  11. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室,ZEPエンジニアリング株式会社.