波長はプリント・パターン上で短くなる


高周波対応シミュレータ Qucsで学ぶアナログ電子回路 超入門

自由空間と伝送線路上の波長は違う

図1 自由空間での波長λ0は光速cと周波数fから求められ,1GHz信号ではλ_0 = 30cm .伝送線路上では電磁界の分布や基板の誘電率の影響で波長が短くなる.画像クリックで動画を見る.または記事を読む

高周波回路では,信号の波長が自由空間と伝送線路上で異なることを理解することが重要です.自由空間での波長$λ_0$は光速$c$と周波数$f$から求められ,1GHz信号では$λ_0 = 30$cmです.伝送線路上では電磁界の分布や基板の誘電率の影響で波長が短くなります.

伝送線路上の波長と位相変化

QucsStudioのマイクロストリップ線路シミュレーションを用いると,伝送線路を通過する信号の位相変化から波長$λ_g$を求められます.プリント・パターンの長さ$L = 1$cmの場合,位相変化から計算すると$λ_g = 16.59$cmとなり,自由空間の波長に比べて短くなっています.この比率は波長短縮率$k$と呼ばれ,$k = λ_g /λ_0 = 0.553$になります.つまり,FR-4基板上のマイクロストリップ線路では信号の波長は自由空間の約55%です.

電気長と波長の関係

伝送線路計算ツールを用いると,位相変化量から電気長を簡単に求められます.電気長は位相だけでなく波長でも表すことができ,例えば90°は伝送線路上で1/4波長に相当します.周波数が変わると波長も変化し,電気長も変化するため,設計時には周波数を明示して電気長を確認することが重要です.

波長短縮が及ぼす設計への影響

伝送線路上で波長が短くなると,プリント・パターンの寸法と共振特性,インピーダンス整合に直接影響します.設計上は波長短縮率を考慮してパターン長を決定する必要があります.高周波信号の伝送では次の点に注意します.

  1. 自由空間での波長$λ_0$と伝送線路上の波長$λ_g$の違いを理解する
  2. 波長短縮率$k$を用いてプリント・パターン長を設計する
  3. 電気長を確認してインピーダンス整合を維持する
  4. 周波数変化による波長と電気長の変化を考慮する
  5. 伝送線路計算ツールで位相変化を確認し,設計精度を高める

波長短縮を正確に理解することで,マイクロストリップ線路やほかの伝送線路における信号伝送特性を適切に設計でき,高周波回路の性能向上につながります.

〈著:ZEPマガジン〉

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参考文献

  1. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.8 初めての28GHzミリ波伝搬実験]ZEPエンジニアリング株式会社
  2. 高感度受信!ソフトウェア無線機の心臓部“Root-Raised Cosine Filter”の設計ZEPエンジニアリング株式会社
  3. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】ZEPエンジニアリング株式会社
  4. [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点
  5. [VOD/KIT]ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石
  6. [VOD]Gbps超 高速伝送基板の設計ノウハウ&評価技術
  7. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング.
  8. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング.