10mm,5mm,2.5mmのマイクロストリップ線路の通過帯域
高周波対応シミュレータ Qucsで学ぶアナログ電子回路 超入門
「長さ≧幅の2~3倍」が基本
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| 図1 マイクロストリップ線路は高周波信号を伝送するための代表的な構造.線路の長さLが信号の通過特性に大きく影響する.画像クリックで動画を見る.または記事を読む. |
マイクロストリップ線路は高周波信号を伝送するための代表的な構造です.線路の長さ$L$が信号の通過特性に大きく影響することはよく知られています.ここでは$L=10$mm,5mm,2.5mmの3種類の線路について,通過帯域の違いと設計上の考え方を解説します.解析には高周波対応シミュレータQucsを用い,集中定数モデルにより各線路の等価回路を比較しています.
10mmから5mmへの短縮による変化
最初に長さ$L=10$mmのマイクロストリップ線路を基準とします.この線路を集中定数回路で表すと,インダクタンス$L_P$とキャパシタンス$C_{Pα}$が直列・並列に配置された構成になります.このときのカットオフ周波数は約3GHz台で,広帯域通信としてはやや低い値です.
線路を半分の長さである$L=5$mmに短縮すると,$L_P$は約2.83nH,$C_{Pα}$は約0.987pF($Z_0=53.55Ω$)になります.この結果,カットオフ周波数は約6.2GHzまで上昇し,10mm時よりも2倍以上広い帯域が得られます.これは線路長を短くすることで分布定数の影響が減少し,通過帯域が拡大することを示しています.
さらに短い2.5mm線路の特性
$L=2.5$mmの線路では,$L_P$は1.091nH,$C_{Pα}$は0.381pFになります.カットオフ周波数は約16GHzに達し,10mm線路の約6.4倍,5mm線路の約2.6倍に相当します.非常に高い周波数まで信号を通過させることができるため,ミリ波帯域の設計にも応用可能です.
ただし短縮しすぎると,線路の「長さ>幅」という前提が崩れます.長さが幅と同程度になると,インダクタンス$L_P$の近似式(集中定数モデル)の精度が低下し,正確な解析が難しくなります.信頼できるシミュレーションを行うためには,長さは幅の2~3倍以上とするのが基本です.
設計時の実践的な指針
マイクロストリップ線路を高周波化するには,単純に短くするだけではなく,基板や幅の設計にも注意が必要です.基板厚$h$を薄くすることで,特性インピーダンスを保ちながら線路幅を細くでき,より短い長さでも正確なモデル化が可能になります.
- 線路長は幅の2~3倍以上を確保する
- 高周波化したい場合は幅を細く,基板を薄く設計する
- 集中定数近似の精度を常に確認する
- 異なる線路構造(ストリップ線路,コプレーナ・ウェーブガイド)でも同様の考え方が適用できる
Qucsなどのシミュレータを活用することで,これらの設計条件を数値的に検証できます.長さ,幅,基板厚の組み合わせを変化させ,通過特性と特性インピーダンスの両方を評価することが高周波設計の基本です. 〈著:ZEPマガジン〉
参考文献
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.8 初めての28GHzミリ波伝搬実験],ZEPエンジニアリング株式会社.
- 高感度受信!ソフトウェア無線機の心臓部“Root-Raised Cosine Filter”の設計,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点
- [VOD/KIT]ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石
- [VOD]Gbps超 高速伝送基板の設計ノウハウ&評価技術
- [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング.
- [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング.