自宅がRF実験室に!1万円3GHzネットアナでSパラ測定
モバイル向け逆Fアンテナを評価してみた
- 著者・講師:知念 幸勇
- 主催:DigiKey
- 企画・編集:ZEPエンジニアリング株式会社
開発に使える3GHzネットワーク・アナライザが1万円で手に入る
図1 NanoVNAは約1万円と,デスクトップ型VNAの数百分の1のポケット型スペクトラム・アナライザ.自宅でRF回路開発も可能な時代だ.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.詳細は[VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計 |
NanoVNA V2(SAAV2)は,低価格でありながら高い性能をもつベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)です.
測定範囲は50kHzから3GHzに及び,周波数分解能は10kHz,ダイナミック・レンジは1.5GHz以下で70dB,3GHzまででは60dBを誇ります.これにより,Wi-Fiやモバイル向けのアンテナやフィルタのSパラメータ測定が可能です.特に,Sパラメータ測定によって得られる$S_{11}$(リターン・ロス)や$S_{21}$(挿入損失)の値は,アンテナや回路のインピーダンス特性を評価する際に非常に重要です.
NanoVNAの価格は約1万円と,従来のデスクトップ型VNAの約1/500で購入できるだけでなく,そのサイズは数十分の一以下と,ポータブル性に優れています.校正(SOLT校正)を行うことで,より正確な測定が可能です.
IFAアンテナのSパラメータ測定
逆F型アンテナ(IFA)は,Wi-FiやBluetoothなど2.4GHz帯を使用する無線通信機器でよく利用されるアンテナの1つです.
IFAの特徴は,小型ながら効率的な放射特性をもち,特にモバイル・デバイスでの使用に適しています.NanoVNA V2を用いてIFAのSパラメータを測定する際,校正された機器を使って,$S_{11}$(リターン・ロス)がどの周波数で最小になるかを調べます.例えば,2.4GHzでの$S_{11}$値が-20dBであれば,非常に効率のよいアンテナであると言えます.
NanoVNAを使った測定では,2.465GHzでの$S_{11}$が-20.41dBと,理想的な性能を示す結果が得られました.この結果は,無料のシミュレーション・ソフトSonnet Liteを使って得られたシミュレーション結果と比較することで,設計の妥当性を確認できます.
Sonnet Liteとのシミュレーション比較
NanoVNA V2で測定したSパラメータは,Sonnet Liteという電磁界シミュレータで解析されたデータと比較されます.
Sonnet Liteは,基板レイアウトのシミュレーションや電流密度分布の解析に優れています.実測とシミュレーションの比較により,アンテナ設計の改善点や,実装上の影響を見つけることができます.例えば,逆Fアンテナのシミュレーションでは,基板サイズやグラウンド・レイアウトの違いが結果に影響を与えることが確認されました.
Sパラメータとは?
概念
Sパラメータ(散乱パラメータ)は,RF回路やアンテナの性能を評価するための重要な指標です.
Sパラメータは,ネットワーク内での信号の反射と伝送を示すパラメータで,特に高周波回路設計においては不可欠なツールです.$S_{11}$は,入力ポートからの反射を示し,$S_{21}$は入力ポートから出力ポートへの伝送を表します.たとえば,アンテナの$S_{11}$が-20dBであれば,アンテナの放射効率が高く,ほとんどのエネルギが外部に放射されていることを意味します.
重要性
Sパラメータを測定することにより,回路やアンテナのインピーダンス特性を評価し,効率的な設計が可能になります.
例えば,2.4GHz帯のアンテナでは,$S_{11}$が-10dB以下であれば良好な設計と見なされますが,-20dB以上であれば非常に効率的なアンテナであることがわかります.この値は,実際の動作周波数でのアンテナの性能を定量的に示すため,設計の最適化やトラブルシューティングに役立ちます.
Sパラメータ測定とVNAの役割
ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)は,Sパラメータ測定のための主要な機器です.VNAは,アンテナや回路に信号を送信し,反射波や通過波を高精度で測定します.
例えば,NanoVNA V2のような低価格のVNAは,安価でポータブルながらも3GHzまでの高周波数帯域で正確なSパラメータ測定が可能です.測定結果は,例えばSonnet Liteのようなシミュレータと組み合わせることで,設計の精度を向上させることができます.
応用例
Sパラメータは,アンテナ設計だけでなく,フィルターや増幅器など,あらゆる高周波回路に適用されます.
例えば,$S_{21}$が高ければ,フィルターが通過する信号の損失が少ないことを意味し,逆に$S_{11}$が小さければ,回路やアンテナの反射損失が少なく,エネルギ効率がよいことを示します.〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 沖縄高専名誉教授,GLEX代表(教育・研究コンサルタント)
- (株)東芝にて,光通信用半導体・送受信器の開発,高周波デバイスの応用技術などに25年間従事.国立沖縄高専にて,アナログ・ディジタル電子回路,高周波回路の講義などに12年間従事.専門領域:光通信,無線工学,半導体工学, バイオ・エレクトロニクス(工学博士,第一級陸上無線技術士,電気通信主任技術者)
著書
- [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- 7大電子回路シミュレータRF解析性能の見極め方,トランジスタ技術2020年1月号,CQ出版社.
- 測定周波数50k~900MHz 5千円のネットワーク・アナライザ NanoVNA,トランジスタ技術2020年7月号,CQ出版社.
- 2.5GHz帯アンテナとLNA回路製作,トランジスタ技術2020年2~3月号,CQ出版社
- QAM-OFDM変調ディジタル無線通信における多層・複合材料の電磁波遮蔽の評価,電子情報通信学会論文誌 招待論文2021年6月号,電子情報通信学会論文誌
参考文献
- [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]高精度アナログ計測回路&基板設計ノウハウ,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータMkⅡ,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [技術連載]5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室 [Vol.8 初めての28GHzミリ波伝搬実験],ZEPエンジニアリング株式会社.