スペクトラム・アナライザの読み方・測り方・使い方

信号?ひずみ?フロア?結合?外来?モード変換?周波数成分の正体を見破る

IoT時代の電子回路開発に欠かせない周波数分析・評価ツール「スペアナ」

スペクトラム・アナライザ(spectrum analyzer)は,いくつかの周波数が混じった信号を周波数に分解し,分解された周波数成分の強度を表示する測定器です.無線通信器や測定器,映像機器など,現代の電子回路の開発に欠かせないツールです.

軸の読み方

横軸

横軸が,周波数で縦軸が強度のグラフで通常表示されます.周波数に分解して低い周波数から高い周波数に強度を並べて示したものは「スペクトラム」と呼ばれます.

一般に,スペクトラム表示グラフの横軸は,リニア表示の周波数数値で目盛られ,縦軸は対数で表示されています.

縦軸

表示画面の縦軸の対数表示の単位は“dBm”(デービーエム)です.

基準は,1mW(0dBm)です.10dBmは10mW,20dBmは100mWさらに30dBmは,1W(=1000mW)です.

dBmは,電力の絶対値を示します.m のつかない[dB]という単位で表すことがあります.この場合は,100mWなどの電力絶対値でなく相対値を示します.[dB]は「デシベル」と読み,慣用的にデービーと発音することも多いです.

“$+$10dB”といったら「電力で1桁大きくなる」ことを意味します.“$-$10dB”といったら,電力で1桁小さくなることを意味します.

信号?それとも ひずみ?それとも…

図1に示すのは,tinySAで信号発生器の出力を測定した結果です.

図1 tinySAを使って,高調波の周波数と基本波との相対レベルを測定した結果

基本信号の周波数は“260.4MHz”,レベルは“6.8dBm”です.

基本波の2次と3次の高調波成分が観測されています.tinySAの自動高調波測定機能をONにすると,2次と3次高調波の周波数と基本波のレベルの相対値が表示されます.

図2に示すのは,2つの同じレベルの周波数 $f_1$ と$f_2$がスペクトラム・アナライザに入力されたときの波形です.$f_1$と$f_2$の周波数が近いときの波形です.

図2 2信号3次ひずみ高調波

信号レベルが大きくなるほど,2つの信号の両側近傍に新たな信号が現れやすくなります.

2信号の周波数は,2$f_1-f_2$と2$f_2-f_1$です.一方の周波数の2倍(2次)成分と他方の周波数の差分であることから,「3次ひずみ成分」と呼びます.

2信号3次ひずみ成分は,図1の高調波のように,基本の倍の周波数離れて出るのでなく,2信号の近傍に現れます.フィルタを使っても取り除くことが難しい成分です.

この近傍の成分の正体が,ひずみなのか,それとも実際に存在する成分なのかを区別するために,高周波アンプやミキサを評価するときは,対象回路がどの程度3次ひずみを発生するのかを実測することが重要です.

3次出力インターセプト・ポイント

「3次出力インターセプト・ポイント」は,3次ひずみをどの程度発生するかを評価するパラメータです.$TOI$,$3IOP$,$3rdIP$とも呼びます.

図3に示すのは,ゲインが10dBのアンプの入力信号レベルと出力信号レベルの関係を示すグラフです.

図3 3次出力インターセプト・ポイント

縦軸と横軸ともに対数のグラフです.

このグラフで傾き 1 の線は入力と出力が1:1で変化するようすを示しています.

傾き 1 の実線は,実際の回路の出力レベルを示しています.出力が10dBm付近で入力に応じたレベルが出ずアンプが飽和しています.

破線は飽和がない場合の出力レベルです.実際の出力と飽和によ実際のレベルとの差が1dBとなる出力信号レベルの点を「1dB圧縮点」と呼びます.

傾き3の線は,3次ひずみ出力です.実線が実際の3次ひずみの出力レベルです.

1次信号の破線を伸ばした線と傾き3の破線を伸ばした線の交点の出力信号レベルが「3次出力インターセプト・ポイント」です.

3IOPが求まると,アンプやミキサなどがどの程度の大きさの3次ひずみを発生するかを把握できます.

測定器自身のひずみに要注意!

スペクトラム・アナライザ自身もひずみを発生させます.

入力信号のレベルが大きくなると,スペクトラム・アナライザによっては,3次ひずみが発生しやすくなります.

スペクトラム・アナライザ内部の回路がひずまないように,入力部にアッテネータが働くように設定されています.

その3次ひずみを発生させているのが,測定対象の回路なのか,それともスペクトラム・アナライザなのかを絶えず気にすることが,正しい測定に欠かせません.