F9P+D9Cで実現!CLASレシーバ
単独高精度測位 みちびき補正信号CLAS入門
CLAS受信機による単独高精度測位の実力
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図1 RTKは軒下でもFixを維持できるのに対し,CLAS(PPP-RTK)は単独測位まで落ちる場面も多く,現場環境に応じた使いわけが求めらる.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[著]岡本 修 詳細:[VOD]センチメートル測位RTKのしくみと開発技術 |
みちびき衛星による補正信号CLASを活用したPPP-RTK測位の性能を,u-blox社のF9PとD9Cを組み合わせた受信機で検証しました.実験は2024年11月,建物周辺を反時計回りに周回しながら行われ,構造物の遮蔽条件に応じた測位精度の違いを詳細に評価しました.
オープン・スカイ条件では,F9P+D9CのCLAS受信機は最大17衛星を利用し,平均的に37mm程度の位置精度を記録しました.これはRTK測位の6~7mmにはおよびませんが,単独高精度測位としては十分に実用的な精度です.
障害環境下での測位精度とFIX率
実験では,以下の3つのルートにおけるFIX率を比較しました.
- 構造物周囲の道路際:Fix率95.2$\%$
- 工場壁際(軒下):Fix率19.4$\%$
- 工場軒先端:Fix率62.2$\%$
開けた場所では非常に高いFix率を維持できる一方,軒下や構造物の近傍では衛星数が減少し,FIXが困難になります.実際,遮蔽が強い軒下ではFix率が著しく低下しました.
実験中,木の下や構造物の影に入るとFIXを維持できず,フロートあるいは単独測位まで性能が落ちる場面がありました.しかし,測位のトレースは途切れることなく継続しており,軌跡は比較的なめらかに再現されていました.
RTKとの比較とCLASの位置づけ
F9P単体のRTK測位に比べ,CLASによるPPP-RTKは環境条件により安定性が左右されやすいことが明らかになりました.特に,RTKは軒下でもFixを維持できるのに対し,CLASは単独測位まで落ちる場面も多く,現場環境に応じた使いわけが求められます.
CLASの利点は,インフラレスで高精度測位が可能な点です.外部の基準局やNTRIPサーバを必要とせず,受信機だけで利用できるため,可搬性や展開性に優れています.
まとめ
F9P+D9CによるCLAS受信機は,開けた場所では高精度かつ安定した測位性能を示しました.構造物周囲など遮蔽環境下ではRTKに比べると精度・Fix維持に課題がありますが,単独での高精度測位という特徴を生かし,用途に応じた適切な選択が求められます.
CLASとは何か
CLASはCentimeter Level Augmentation Serviceの略で,日本の準天頂衛星システム「みちびき」によって配信される高精度測位のための補正信号です.従来の単独測位に比べ,誤差を大幅に低減し,準リアルタイムで数cm精度の測位を可能にします.
PPP-RTKとの関係とCLASの特徴
CLASはPPP-RTK(Precise Point Positioning - Real Time Kinematic)の方式を採用しています.これは,軌道誤差・クロック誤差・電離層遅延などの衛星由来の誤差を,みちびきL6信号を通じて広域に補正する技術です.
従来のRTKでは,近傍の基準局との相対測位が必要でしたが,CLASでは基準局なしでも精度の高い測位が可能です.特に,インフラの整備が難しい場所での活用が期待されます.
実運用での課題と今後の展望
CLASの弱点は,遮蔽環境におけるFIX維持性能の低下です.衛星の視認性が落ちると,Fix率が大きく下がり,フロートや単独測位に移行する傾向が強まります.衛星数が多くても,障害物の影響で有効衛星数が不足する場合があります.
- CLAS利用にはD9CなどL6信号対応の受信機が必要
- u-blox F9P単体ではRTKだけ,CLASにはD9Cとの組み合わせが必要
- Fix性能は開けた環境で最大限に発揮される
今後,L6D信号の信頼性向上や,より高性能なL6対応受信モジュールの登場により,CLASの測位安定性が向上すれば,ドローン,農業機械,自動運転車両など幅広い分野での実用化が加速すると考えられます.
まとめ
CLASは日本独自の広域補正信号であり,基準局不要で数cm精度を実現できる技術です.遮蔽環境ではまだ課題がありますが,その利便性と将来性から,次世代の測位技術の重要な柱と位置づけられます. 〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 1993年 西松建設(株)技術研究所研究員
- 2000年 茨城工業高等専門学校助手
- 2002年 博士(工学)「リアルタイム・キネマティックGPS測位の建設工事における応用に関する研究」,主に建設業における高精度衛星測位の応用において,1周波RTK測位の普及等の低価格化,遮へいやマルチパスの多い環境におけるセンチメータ級測位の応用,誤差補正法に取り組む.RTK-GPSの誤差補正法等で2001年日本測量協会測量技術奨励賞,地下埋設物可視化システムの開発で2019年土木学会技術開発賞を受賞
- 2020年 静岡大学土木情報学研究所客員教授
- 詳細
著書
- 高精度衛星測位の性能と応用事例,日本ロボット学会誌,37(7),pp.15~20,2019.7.
- 衛星測位を利用した土壌汚染状況調査における調査地点設定システム,測量,65(12),pp.14-17,2015.12.
- 電波の悪い森の中でも美軌道測位,トランジスタ技術2019年10月号,別冊,pp.2~3,CQ出版社.
- 最新RTKレシーバFi×性能対決,トランジスタ技術2019年2月号,pp.41~45,CQ出版社.
- センチ・メートル測位RTK法の基礎と実力,トランジスタ技術2016年2月号,pp.66~79,CQ出版社.
参考文献
- [VOD/KIT]RTKポータブル・センチ・メートル測位キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/Pi400 KIT]SLAMロボット&ラズパイ付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]確率・統計処理&真値推定!自動運転時代のカルマン・フィルタ入門,ZEPエンジニアリング株式会社.