基準点データを配信するしくみとは
単独高精度測位 みちびき補正信号CLAS入門
基準点配信サーバ NTRIP
![]() |
---|
図1 RTK測位は,基準局の補正情報をネットワーク越し受信する.NTRIPは,RTCM形式の測位補正データをインターネット経由で配信するためのプロトコル.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[著]岡本 修 詳細:[VOD] センチメートル測位RTKのしくみと開発技術 |
高精度測位を実現するには,単独測位では精度が足りません.そのため,基準局の測位データをネットワーク越しに受信し,補正情報として用いるRTK測位が広く使われています.
この配信を支えるしくみがNTRIP(エヌ・トリップ)です.NTRIPは,RTCM形式などの測位補正データをインターネット経由で配信するためのプロトコルです.
NTRIPには3つの役割があります.
- NTRIP Server(サーバ):基準局に設置され,GNSS受信機で観測した測位データを生成し,NTRIP Casterへ送信
- NTRIP Caster(キャスタ):複数のサーバからデータを受信し,インターネット経由でクライアントへ配信
- NTRIP Client(クライアント):ユーザ側の受信ソフトで,近隣の基準局のデータをCasterから受け取り,RTK補正に利用
この3者の連携により,リアルタイムで補正情報を得ることができます.たとえば,u-blox社F9Pのような受信機を用いると,10km以内のオープン基準局があれば数cm級の測位が可能です.
RTK測位の構成と注意点
RTKの基本構成では,ユーザはNTRIP Clientとして動作します.スマートフォン・アプリや外部GNSSモジュールが,NTRIP Casterへアクセスし,データを取得します.このとき,キャスタにはrkt2goのような無料公開サービスや,有料のichimillなども利用可能です.
基準局との距離が短いほど精度は高くなります.10km以内であればFix解が得られ,数cmレベルで位置が確定します.逆に,10kmを超えるとFloat解の状態になりやすく,測位結果が不安定になります.ロング・ベースライン対応の受信機では数十kmでもFixする場合がありますが,ばらつきが大きくなります.
基準点配信に関する注意点
NTRIPの構成は紛らわしい名称が多く混乱を招きやすいです.Server,Caster,Clientの役割を正確に理解することが重要です.特に,Casterが中心的な役割を果たしており,多数のClientからの要求に応じて適切な基準局データを選んで配信するしくみを担います.
GNSS補正情報の配信を支えるプロトコル
NTRIPは「Networked Transport of RTCM via Internet Protocol」の略で,RTCMなどのGNSS補正データをインターネット経由で転送するための標準プロトコルです.もともとは水路測量などの高精度用途を目的に策定され,今では農業機械の自動運転やインフラ点検にも使われています.
構成は明確に3つにわかれています.
- NTRIP Server:GNSS観測装置のある基準局に設置し,補正データを生成
- NTRIP Caster:Serverからデータを受け取り,ネットワークでクライアントに中継
- NTRIP Client:Casterにアクセスして補正情報を取得
NTRIPの主なデータ形式はRTCM3ですが,RAWデータや独自形式でもかまいません.仕様上,Casterは特定プロトコルに依存せず配信可能なため,将来的な拡張性にも優れています.
無料と有料のCasterサービス
NTRIP Casterを利用するには,無料のrkt2goや有料のichimillなど複数の選択肢があります.rtk2goはSNIP社が提供するオープンなCasterで,個人や研究用途にも適しています.ichimillはソフトバンクが運営する有料サービスで,CLASや独自基準点網を組み合わせた高信頼な補正データが特徴です.
距離と精度の関係
RTK測位における精度は,基準局までの距離(ベースライン)に依存します.10km以内であればFix解が得られやすく,数cmの測位が可能です.距離が離れるとFloat解の状態が続きやすく,数m程度まで精度が低下します.最近ではロング・ベースラインに対応した受信機も登場し,u-blox社F9Pでは70km程度までFix解を安定して得られるとされています.
NTRIPは今後も広がるか
NTRIPは安価で柔軟に構成できるため,個人のDIY測位から,都市インフラの精密管理まで応用範囲が広がっています.キャスタソフトの無償版もあるため,小規模な運用でも導入しやすいです.また,CLASとの併用により,準天頂衛星みちびきが提供する補正情報と組み合わせることで,全国的な高精度測位が現実になっています.〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 1993年 西松建設(株)技術研究所研究員
- 2000年 茨城工業高等専門学校助手
- 2002年 博士(工学)「リアルタイム・キネマティックGPS測位の建設工事における応用に関する研究」,主に建設業における高精度衛星測位の応用において,1周波RTK測位の普及等の低価格化,遮へいやマルチパスの多い環境におけるセンチメータ級測位の応用,誤差補正法に取り組む.RTK-GPSの誤差補正法等で2001年日本測量協会測量技術奨励賞,地下埋設物可視化システムの開発で2019年土木学会技術開発賞を受賞
- 2020年 静岡大学土木情報学研究所客員教授
- 詳細
著書
- 高精度衛星測位の性能と応用事例,日本ロボット学会誌,37(7),pp.15~20,2019.7.
- 衛星測位を利用した土壌汚染状況調査における調査地点設定システム,測量,65(12),pp.14-17,2015.12.
- 電波の悪い森の中でも美軌道測位,トランジスタ技術2019年10月号,別冊,pp.2~3,CQ出版社.
- 最新RTKレシーバFi×性能対決,トランジスタ技術2019年2月号,pp.41~45,CQ出版社.
- センチ・メートル測位RTK法の基礎と実力,トランジスタ技術2016年2月号,pp.66~79,CQ出版社.
参考文献
- [VOD/KIT]RTKポータブル・センチ・メートル測位キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/Pi400 KIT]SLAMロボット&ラズパイ付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]確率・統計処理&真値推定!自動運転時代のカルマン・フィルタ入門,ZEPエンジニアリング株式会社.