高電圧に耐えられる?AC100~200Vの配線技術


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絶縁距離とクリアランスの確保

図1 高電圧では,わずかな絶縁距離の不足や基板表面の汚れが原因でリーク電流や放電が発生することがある.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]善養寺薫
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IoT制御基板などでAC100VやAC200Vを扱う場合,プリント基板のパターン設計には特別な注意が必要です.高電圧では,わずかな絶縁距離の不足や基板表面の汚れが原因でリーク電流や放電が発生することがあります.設計段階での誤りは安全性に直結するため,IEC-J60950-1などの国際規格を参照しながら設計基準を明確にしておくことが大切です.

絶縁距離とクリアランスの確保

高電圧に耐えるための基本は,導体間の「絶縁距離」と「沿面距離」を十分に取ることです.AC100V~200V程度であっても,湿度や汚染の程度によって必要距離は変化します.KiCADなどのCADツールで設計する際は,ルール設定機能を活用してトレース間隔を自動的にチェックできるようにしておくと安心です.

  1. トレース間隔は使用電圧に応じて設定する
  2. 高電圧部と低電圧部は明確に分離する
  3. シルク印刷などで高電圧エリアを明示する

ACラインの配線では,0.3mm程度の線間距離では不十分なことが多く,基板の汚染度によっては2mm以上のクリアランスが必要になる場合もあります.基板材料の表面抵抗値や湿度の影響も考慮する必要があります.

空中配線と絶縁処理の利用

高電圧を扱う場合,プリント基板上のパターンだけで安全な絶縁距離を確保できないことがあります.そのようなときは,空中配線を採用する方法があります.リード線を空間中で接続し,シリコン樹脂やエポキシ樹脂で封止して絶縁を確保します.また,5kVクラスの電圧を扱う装置では,基板ごと絶縁油に沈めて使用することもあります.

  1. プリント基板を使用しない空中配線構成を検討する
  2. 絶縁樹脂やシリコン・チューブを併用して安全性を高める
  3. 高電圧領域では金属粉やほこりの付着を防ぐ構造とする

リーク電流と高抵抗回路への影響

nAやpA単位の微小電流を扱う高精度回路では,プリント基板上の絶縁層を介してわずかなリーク電流が流れることがあります.これが誤差要因となるため,電圧が高くなくても空中配線を採用する場合があります.特に高インピーダンス入力部やセンサアンプの周辺では,プリント基板の表面処理や清浄度が性能に影響します.

設計時に参考とすべき基準と実務的ポイント

高電圧を扱う回路設計では,IEC-J60950-1をはじめ,各業界団体や設計会社が独自に定めるガイドラインを参照することが推奨されます.KiCADの外形線レイヤに絶縁穴を設けるなど,設計ツール側でも安全対策を取り入れることが可能です.基板製造業者によっては,外形レイヤ上の指定で自動的に穴加工を行ってくれる場合もあります.

最終的には,使用する電圧・環境条件・目的に応じて,パターン設計か空中配線かを判断することが重要です.電気的安全性は,設計者が最初に検討すべき技術要素の1つです.

〈著:ZEPマガジン〉

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参考文献

  1. [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD] Before After! ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [Book/PDF]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD/KIT]ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.