クロストークを最小化 AIでスピード基板設計


電磁界をリアルタイム予測

電磁界シミュレーションより数万倍速く最適解に辿り着く

図1 クロストークは,隣接する回路の信号が干渉し合う現象で,差動信号を扱うときの重要課題.AIや機械学習を活用して,このクロストークを最小化する基板設計の技術が注目されている.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.詳細は[VOD/Book/data]AI×電磁界シミュレータによる高速&RF回路基板 スピード設計

クロストークを最小化するAI基板設計技術

1. はじめに

クロストークは,隣接する回路の信号が干渉し合う現象で,特に高周波回路や差動信号を扱う場合には設計上の重要な課題です.AIや機械学習を活用して,クロストークを最小化し,基板設計のスピードと精度を向上させる技術が注目されています.この記事では,差動線路の最適化を目指したAI基板設計技術について,基本的なしくみから実際の応用までを解説します.

2. クロストークの最小化

基板設計において,クロストークは「近端クロストーク」(Sdd31) や「遠端クロストーク」(Sdd41) として計測され,これらのパラメータを最小化することが理想的です.これに対し,「挿入損失」(Sdd21) は最大化する必要があります.これらのSパラメータは,差動信号の性能を示す指標であり,基板設計の重要な評価基準です.

クロストークを低減するためには,配線幅 $W$,差動線路内の間隔 $S_1$,差動線路間の間隔 $S_2$,絶縁層の厚さ $T$ といった設計パラメータを最適化する必要があります.

3. 機械学習による設計最適化

AIや機械学習を用いた設計最適化では,設計変数とSパラメータの関係を回帰モデルで定義します.このプロセスでは,通常,電磁界シミュレーションや実験データを基にモデルを作成し,そのモデルに基づいて設計の最適解を探索します.

多目的最適化アルゴリズムとして,遺伝的アルゴリズムが使用されることが多く,これにより,クロストークを最小化しつつ,ほかの性能も向上させる最適設計が可能になります.

クロストークとSパラメータの基本概念

1. クロストークとは何か?

クロストークは,基板上の信号線どうしが互いに干渉し合い,意図しない信号伝達が発生する現象です.特に高周波や高速ディジタル回路では,この干渉が設計の性能に大きな影響を与えるため,クロストークの抑制が重要です.

クロストークには,「近端クロストーク」(NEXT) と「遠端クロストーク」(FEXT) の2種類があります.NEXTは信号送信側での干渉,FEXTは信号受信側での干渉を指します.

2. Sパラメータの基本

基板設計において,信号の挙動を評価するために用いられるのがSパラメータです.Sパラメータは,反射や透過,挿入損失,クロストークなどを表し,次のような形式で表されます.

  1. $S_{11}$: 反射損失
  2. $S_{21}$: 挿入損失
  3. $S_{31}$: 近端クロストーク (NEXT)
  4. $S_{41}$: 遠端クロストーク (FEXT)

これらのSパラメータを適切に最小化・最大化することで,基板の性能が最適化されます.

3. クロストーク最小化のための設計パラメータ

差動信号ラインにおいて,クロストークを最小化するためには,いくつかの設計パラメータを調整することが求められます.特に,以下の要素が重要です.

  1. 配線幅 ($W$): 信号の伝送性能に影響を与える
  2. 差動線路内の間隔 ($S_1$): 線路間の干渉を防ぐためのスペース
  3. 差動線路間の間隔 ($S_2$): クロストークの発生を抑えるために調整する距離
  4. 絶縁層の厚さ ($T$): 信号間の絶縁効果を高めるための要素

機械学習を利用した最適化により,これらのパラメータの組み合わせが最適化され,クロストークを最小化し,挿入損失を最大化する設計が実現可能です.

4. 機械学習とパレート最適解

パレート最適解とは,複数の設計目標を同時に満たす最適解のことを指します.例えば,Sdd11やSdd31を最小化しつつ,Sdd21を最大化するような設計が求められます.機械学習を使うことで,これらの設計目標をバランス良く達成できる設計解を自動で探索することが可能です.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 1994年 東京農工大電気電子工学科卒
  • 1994年 日本航空電子工業株式会社入社.プリント基板設計,シグナル・インティグリティのシミュレーション業務に従事後,USB-IF,PCI-SIG,VESAなどでコネクタの高速伝送規格化活動に携わりながら,ノイズ対策業務を行っている.iNARTE認定EMCエンジニア,EMCマスタ・デザイン・エンジニア

著書

  1. [VOD/Book/data]AI×電磁界シミュレータによる高速&RF回路基板 スピード設計,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [Book/pdf]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [pdf]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. USB3.2のすべて,CQ出版社.

参考文献

  1. [VOD/KIT] ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/KIT] 3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [YouTube]高校数学からはじめる「ベクトル解析」,ZEPエンジニアリング株式会社.