SiCはSiの耐圧100倍,放熱効率3倍


SiC GaN FETの高速ドライブ回路設計


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SiCの高耐圧・低損失特性

図1 SiC(炭化ケイ素)MOSFETは,シリコン(Si)ベースのMOSFETに比べて,同じドリフト層の厚さでも約30?40倍の耐圧が得られる特性をもつ.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]住谷 善隆
詳細:[VOD]小型&高出力!高効率電源設計のためのSiC/GaNトランジスタ活用 100の要点【セッション1】実験!SiC/GaN FETを高速かつ安全に駆動する回路設計技術

SiC(炭化ケイ素)MOSFETは,シリコン(Si)ベースのMOSFETに比べて,同じドリフト層の厚さでも約30~40倍の耐圧が得られる特性をもっています.このため,40Vの耐圧をもつシリコンMOSFETと同じ構造でSiCを用いた場合,約1200Vの耐圧をもつMOSFETが実現できます.

ドリフト層の抵抗成分を下げることで,スイッチング時のオン抵抗を抑え,エネルギ損失を大幅に減少させることができます.これにより,電力変換の効率が高まり,スイッチング素子の発熱も抑制されます.

放熱特性と回路設計への影響

SiCデバイスは熱伝導率が高く,同一面積で比較した場合,シリコンの約3倍の放熱効率をもちます.パッケージ内の大きな放熱パッドに直接実装することにより,発熱が多い用途でも素早く熱を逃がすことが可能です.

この高い放熱性能により,同じ面積でもより多くの電流を流すことができ,デバイスのサイズを抑えつつ出力密度の高い回路が設計できます.特に高速スイッチングを伴う電源回路では,この放熱特性が重要です.

ボディ・ダイオードとスーパージャンクションの違い

シリコンMOSFETでは高耐圧化の手段としてスーパージャンクション構造が用いられますが,この構造ではP型の柱がボディ・ダイオードを構成し,ダイオード領域の面積が大きくなります.

その結果,スイッチがOFFの際にダイオードに生じる逆回復損失が増加し,発熱の増加や効率低下を招きます.一方で,SiC MOSFETではボディ・ダイオードの面積が小さく,逆回復の影響を最小限に抑えたスイッチングが可能です.

寄生成分が小さいため,$L_r$や$V_{in}$のような影響成分によるノイズや立ち上がり時間のばらつきも抑制できます.このような特性が,GaNやSiCを用いた高速ドライブ回路に適した設計を可能にします.

シリコンとの違いと高耐圧の原理

SiCは炭化ケイ素という化合物半導体です.バンドギャップが広く,絶縁破壊電界も高いため,ドリフト層を厚くしなくても高い耐圧が得られる特徴があります.

ドリフト層とは,スイッチング素子の中で電圧を受けもつ領域であり,この厚みが耐圧に直結します.SiCはドリフト層の厚さを変えずに数十倍の耐圧が得られるため,同じ寸法でより高電圧に耐える設計が可能です.

これにより,40V耐圧のSi MOSFETと同等のサイズで,1200V以上の耐圧をもつSiC MOSFETが実現されます.

放熱効率と電流密度の向上

SiCは熱伝導率が高いため,チップ内で発生した熱を外部に効率よく放出できます.シリコンの約3倍の放熱効率があり,同じ面積で多くの電流を扱うことができます.

発熱を効率的に処理できることは,高出力用途や高スイッチング周波数の回路で極めて重要です.デバイスを大型化せずに放熱性能を確保できるため,回路の高密度化にも寄与します.

スーパージャンクションとの比較

SiC MOSFETはシリコンMOSFETにおけるスーパージャンクション構造に依存しません.スーパージャンクション構造では,P型とN型の交互構造によって耐圧を高めていますが,これによりボディ・ダイオードの面積が増加し,逆回復損失が大きくなります.

逆回復損失はスイッチOFF時にエネルギが損失される現象であり,スイッチング損失の大きな要因です.SiCはこのダイオード領域が小さく,逆回復による損失が少ない構造です.

SiC MOSFETの設計上のポイント

  1. ドリフト層の抵抗が小さく,高速スイッチングが可能
  2. 寄生成分が少なく,$L_r$や$V_{in}$の影響を抑えやすい
  3. ボディ・ダイオードの逆回復損失が小さい
  4. 放熱効率が高く,高電流密度の回路設計が可能

このような特性から,SiC MOSFETはEVの主電源や高周波インバータ,太陽光発電のパワー・コンディショナなどの分野で導入が進んでいます.

〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 2003年 パデュー大学大学院を卒業
  • 2007年 リニアテクノロジー株式会社にFAEとして入社
  • 2017年 アナログ・デバイセズ株式会社 車載ビジネス・デブロップメント・スペシャリスト.主に新製品の企画や開発に携わる

著書

  1. [VOD]小型&高出力!高効率電源設計のためのSiC/GaNトランジスタ活用 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】,ZEPエンジニアリング株式会社.

参考文献

  1. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
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