超高スルーレートのSiC/GaNを安全に使う


SiC GaN FETの高速ドライブ回路設計


受講無料!7月25日限定再配信[Webinar]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点


超高スルーレート時代の高速ドライブ回路設計

図1 SiCやGaNのFETを安全に高速駆動するためには,誤動作防止のための分離構造,放熱設計に配慮が必要.特にケルビン・ソース端子の適切な扱いは信頼性確保に直結する.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]住谷 善隆
詳細:[VOD]小型&高出力!高効率電源設計のためのSiC/GaNトランジスタ活用 100の要点【セッション1】実験!SiC/GaN FETを高速かつ安全に駆動する回路設計技術

SiCやGaNのMOSFETは,従来のSi MOSFETと比べて非常に高いスルーレートを実現できます.電圧および電流の立ち上がり速度が非常に速く,スイッチング損失の低減や高周波駆動に有利です.

しかし高スルーレート動作は,ノイズや誤動作の要因ともなります.安全に動作させるためには,適切な回路構成とレイアウト技術が求められます.

ソース端子の分離構造と設計上の注意

SiCやGaNのデバイスには,ソース端子が2つにわかれているタイプが多く存在します.一般に2番端子がパワーソース,3番端子がケルビン・ソースと呼ばれます.この構造は,コモンソース・インダクタンスの影響を排除する目的です.

ゲート・ドライブ電流とスイッチング電流の経路を分離することで,ゲートに流れる電圧変動を抑え,スパイクや誤動作を防ぐことができます.特にGaNデバイスはスレッシュホールド電圧が低く,微小な電圧変化でも誤導通する可能性があります.

ケルビン・ソース端子にはドレイン電流を流すことができません.デバイスの内部構造を見ると,電流を流すための電極が非常に細く設計されており,大電流に耐える構造ではないためです.

基板設計と放熱の工夫

高速スイッチングに対応するためには,リード端子の長さを極力短く保つことが重要です.リードが長いと寄生インダクタンスが増加し,スルーレートの高速性を損ねます.曲げ加工を行う場合は,必ずジグで電極の太い部分を押さえながら行い,内部にストレスを加えないようにします.

SiCデバイスには,絶縁タイプと非絶縁タイプがあります.非絶縁タイプでは,放熱パッドへ直接取り付けます.一方絶縁タイプでは,セラミックなどの介在層を用いて絶縁を確保しつつ放熱性を保ちます.

高耐圧が要求される1000V超の回路では,沿面距離の確保も重要です.D2PAKでも工夫された高圧対応のパッケージが登場しており,これらを積極的に採用することが望ましいです.

まとめ

SiCやGaNのFETを安全に高速駆動するためには,端子構造の理解,誤動作防止のための分離構造,放熱設計,レイアウト工夫など多面的な配慮が必要です.特にケルビン・ソース端子の適切な扱いは信頼性確保に直結します.

ケルビン・ソース端子の構造と役割

ケルビン・ソース端子とは,パワーMOSFETのソース端子から分離されたもう1つのソース電位の端子です.一般的にはゲート・ドライバと接続されるため,ゲート電流の基準として利用されます.これはゲート・ドライブ回路がスイッチング電流の変動に影響されないようにするための配慮です.

スイッチング動作では$di/dt$によりソース配線のインダクタンスで電圧降下が発生します.この影響がゲートに重畳すると,誤動作やリング現象の原因になります.ケルビン・ソースはこのノイズ経路から独立したリターン・パスを提供し,ゲート制御の安定性を確保する構造です.

大電流を流せない理由と構造的制約

多くのユーザが誤解しやすい点として,「ケルビン・ソースにもドレイン電流を流せるのではないか」という疑問があります.結論として,ケルビン・ソースにはドレイン電流を流してはいけません.

デバイス内部の構造を見ると,ケルビン・ソース端子のボンディング・ワイアは非常に細く,ゲート・ドライブ用の電流しか想定されていません.対してパワーソース端子は太く,ドレイン電流の主経路として設計されています.細いワイアに大電流を流すと,断線や過熱,信頼性の低下を招きます.

回路設計上の利用と誤解の防止

回路設計では,ケルビン・ソースを適切に分離し,ゲート・ドライバのグラウンド側に直接接続します.さらに,カレントセンス機能をもつフライバック・コントローラなどでは,1$\Omega$程度のセンス抵抗をケルビン・ソース端子に接続し,電圧差を検出して電流制御に用いることもあります.

  1. ゲート電流とスイッチング電流の経路を分離する
  2. 誤動作やノイズ重畳を防止する
  3. デバイスの定格に従い大電流は絶対に流さない

ケルビン・ソース端子の意図を理解し,構造と制約を踏まえた正しい回路設計を行うことで,超高スルーレートの特性を十分に活かしながら,安全性と信頼性の高いシステムを構築できます.

〈著:ZEPマガジン〉

動画を見る,または記事を読む

著者紹介

  • 2003年 パデュー大学大学院を卒業
  • 2007年 リニアテクノロジー株式会社にFAEとして入社
  • 2017年 アナログ・デバイセズ株式会社 車載ビジネス・デブロップメント・スペシャリスト.主に新製品の企画や開発に携わる

著書

  1. [VOD]小型&高出力!高効率電源設計のためのSiC/GaNトランジスタ活用 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】,ZEPエンジニアリング株式会社.

参考文献

  1. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT/data]一緒に作る!LLC絶縁トランス×超高効率・低雑音電源 完全キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD] Before After! ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [Book/PDF]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
  7. [VOD/KIT]ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石,ZEPエンジニアリング株式会社.
  8. [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  9. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.