JESD204におけるリターン・ロスの意味と役割
計測のためのA-Dコンバータ実装術
JESD204の目標アイ・パターン
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図1 リターン・ロスが大きいほど入力信号が反射せずに伝送されていることを意味する.理想は,S11$はゼロ,リターン・ロスはマイナス無限大.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[著]藤森 弘己
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JESD204インターフェースでは,高速な差動信号伝送が行われるため,信号品質の評価指標としてリターン・ロスが重要です. リターン・ロスは,Sパラメータの1つである$S_{11}$を使って定義され,以下のように表されます.
$RL = 20 \log_{10}(|S_{11}|)$
リターン・ロスが大きいほど,入力信号が反射せずに伝送されていることを意味します. 理想的には$S_{11}$はゼロ,リターン・ロスはマイナス無限大です. 実際には材料,配線,構造の影響により一定の反射は避けられないため,規格に沿って許容範囲が定められています.
JESD204Bにおけるリターン・ロスの規格と読み取り
JESD204B仕様書には,受信側のリターン・ロスに関する詳細な要件が記載されています. 仕様の中では,周波数帯ごとに必要なリターン・ロスの下限値が決まっており,これにより反射の影響を最小限に抑え,データの損失やビット・エラーを防止します.
仕様書には以下のような特徴があります.
- Sパラメータの$S_{11}$に基づくdBスケールでの表記
- 対象周波数範囲ごとの規格値の設定
- 挿入ロスや他のパラメータとの整合性を持った構成
これらの値は配線設計や材料選定の指針として利用されます. すべてを暗記したり手計算したりする必要はなく,設計段階での確認用データとするのが一般的です.
設計への適用と実装上の工夫
設計者が実際にリターン・ロスの数値を細かく計算することは少なく,代わりにCADツールや電磁界シミュレータを使って,設計の初期段階で材料や構造の妥当性を確認します.
たとえば,FR4のような基板材料を使用する際には,使用する周波数帯において目標のリターン・ロスを満たすかどうかを検証する必要があります. ストリップ線路構造とマイクロストリップ構造では,伝送特性が異なり,リターン・ロスの値にも違いが生じます.
次のような観点でリターン・ロス特性を事前に確認しておくと,後の不具合を避けやすくなります.
- 伝送路構造による差異(ストリップ線路/マイクロストリップ)
- 基板材質ごとの誘電特性
- 接続部やビアのインピーダンス変化
JESD204Bの規格値と設計対象の伝送特性を比較し,目標のリターン・ロスが確保できているかを検証することが,安定したA-Dコンバータ実装にとって重要です.
著者紹介
- 1979年 芝浦工業大学 通信工学科卒業
- 同年 Analog Devices of Japan Inc に入社(後にアナログ・デバイセズ株式会社)同社にてアナログ・モジュール開発,Mixedシグナル・テスタのテスト・モジュール開発、高速リニア・カスタム集積回路の開発サポート,汎用リニア製品マーケティング等を担当.
著書
- OPアンプ増幅回路の2つのゲイン,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]アナログ・デバイセズの電子回路教室【差動信号とその周辺回路設計技術】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]アナログ・デバイセズの電子回路教室【A-D/D-Aコンバータの使い方】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
参考文献
- [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]高精度アナログ計測回路&基板設計ノウハウ,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]Gbps超 高速伝送基板の設計ノウハウ&評価技術,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [Book]電子回路とプリント基板のノイズ解決 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.