そのシールド要る?コネクタの効果的EMC
同相ノイズで大差がつく
- 著者・講師:池田 浩昭
- 主催:ZEPエンジニアリング株式会社
- 企画・編集:ZEPエンジニアリング株式会社
3つの対策の違いをシミュレーション実験
図1 コネクタにおける差動信号と同相信号によるノイズの放射は,シールドの有無で大きく違う.この効果の違いをシミュレーション実験で確認する.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.詳細は[VOD/Book/data]AI×電磁界シミュレータによる高速&RF回路基板 スピード設計 |
コネクタの効果的なノイズ抑制とシールドの必要性
コネクタのノイズ問題とシミュレーション
コネクタの効果的なノイズ抑制は,電子機器において非常に重要な課題です.特に,差動信号と同相信号によるノイズの放射は,シールドの有無によって大きく変化します.ここでは,コネクタのノイズに対するシールド効果をシミュレーション実験によって確認した結果について説明します.
シミュレーションでは,差動信号と同相信号の両方の入力条件に対して,ケーブルのシールドとコネクタ部の設計がどのように影響するかを解析しました.差動信号の場合,シールドの隙間を埋めても大きな効果は得られませんが,同相信号ではシールドの隙間がノイズの原因となりやすいことがわかります.特に,シールドが適切に接続されていないと,同相信号による放射ノイズが非常に悪化します.
コモン・モード電流の影響とシールドの必要性
コモン・モード電流は,基板やケーブルの共振により,特定の周波数で増幅されることがあります.今回のシミュレーションでは,430MHzにおいてコモン・モード電流の増加が確認されました.基板とケーブルの長さが共振条件に合致した場合,電流が増大し,放射電界が極大となることがわかりました.
数式で表すと,信号源波長の半波長($\lambda/2$)が基板とケーブルの長さと一致する周波数で,強い共振現象が発生します.
\[ \lambda = \frac{c}{f} \] ここで,$c$ は光速,$f$ は周波数です.この条件を満たすと,電流の強い共振が引き起こされ,ノイズが発生しやすくなります.
シールド・コネクタの効果
シールド付きコネクタの効果を確認するため,M1, M2, M3という3つのモデルを用いたシミュレーションを実施しました.M1はシールド接続なし,M2は部分的な接続,M3は完全なシールド接続のモデルです.結果として,同相信号の場合,M3でもっともノイズが少なくなることが確認されました.一方,差動信号では,シールドの隙間が多少あっても放射ノイズには大きな影響はありませんでした.
この結果から,シールドは同相信号に対して特に有効であり,コモン・モード・チョークの併用によりノイズ抑制効果が高まることが示されています.
コモン・モード電流とノイズ抑制のメカニズム
コモン・モード電流とは?
コモン・モード電流とは,差動信号を伝送するシステムにおいて,回路全体を流れる不要な電流のことです.この電流は,ノイズ源となり,外部へ放射されることで周囲の機器に悪影響を及ぼします.特に,高周波数で動作するシステムでは,コモン・モード電流が基板やケーブルの共振と相まって,強いノイズが発生します.
\[ I_{CM} = \frac{I_{1} + I_{2}}{2} \] ここで,$I_{1}$ と $I_{2}$ はそれぞれ差動信号の正負の電流です.この電流の和が大きくなると,コモン・モードノイズの放射が増加します.
シールドの役割と重要性
シールドは,コモン・モード電流による放射ノイズを抑制するための重要な要素です.シールドが適切に実装されている場合,外部へのノイズ放射を最小限に抑えることができます.特に,同軸ケーブルなどのシールド導体がしっかりと接続されていることが重要です.
シミュレーション結果では,シールドがしっかりと接続されているM3モデルが最もノイズ抑制効果が高いことが確認されています.逆に,シールド接続が不十分なM1モデルでは,同相信号による放射ノイズが顕著に増加しました.
コモン・モード・チョークの効果
コモン・モード・チョークは,コモン・モード電流を効果的に抑制するための部品です.このデバイスは,差動信号には影響を与えず,コモン・モード電流だけを減少させる効果があります.シミュレーションでは,M1モデルにコモン・モード・チョークを使用することで,放射ノイズが著しく低減することが確認されました.
実際には,完全にコモン・モード電流を取り除くことは難しいですが,シールドとコモン・モード・チョークを併用することで,ノイズを効果的に抑制できます.特に,同相信号成分の多いシステムでは,これらの対策が不可欠です.
このように,コネクタやケーブルのシールド設計は,ノイズ抑制の要であり,適切なシールド処理とチョークの使用が電子機器の安定動作に寄与します.〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 1994年 東京農工大電気電子工学科卒
- 1994年 日本航空電子工業株式会社入社.プリント基板設計,シグナル・インティグリティのシミュレーション業務に従事後,USB-IF,PCI-SIG,VESAなどでコネクタの高速伝送規格化活動に携わりながら,ノイズ対策業務を行っている.iNARTE認定EMCエンジニア,EMCマスタ・デザイン・エンジニア
著書
- [VOD/Book/data]AI×電磁界シミュレータによる高速&RF回路基板 スピード設計,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [Book/pdf]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [pdf]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
- USB3.2のすべて,CQ出版社.
参考文献
- [VOD/KIT] ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT] 3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [YouTube]高校数学からはじめる「ベクトル解析」,ZEPエンジニアリング株式会社.